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多焦点眼内レンズのメリット・デメリット〜選択の前に知っておくべきこと

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多焦点眼内レンズのメリット・デメリット〜選択の前に知っておくべきこと

多焦点眼内レンズのメリット・デメリット〜選択の前に知っておくべきこと

2025/09/18

多焦点眼内レンズとは?基本的な理解から

多焦点眼内レンズは、白内障手術で混濁した水晶体を取り除いた後に挿入する特殊な人工レンズです。通常の単焦点眼内レンズとは異なり、遠くと近くの両方にピントを合わせることができる優れた特徴を持っています。

白内障は80歳を超えるとほぼ100%の方が発症するとされる一般的な眼の疾患です。加齢に伴って水晶体が白く濁り、視力が低下していきます。この濁った水晶体を取り除き、代わりに人工のレンズを入れるのが白内障手術の基本です。
単焦点眼内レンズは一つの距離(通常は遠方または近方)にのみピントが合うため、遠方に合わせた場合は近くを見る際に老眼鏡、近方に合わせた場合は遠くを見る眼鏡が必要になります。
一方、多焦点眼内レンズは複数の距離にピントを合わせることができるため、術後の眼鏡依存度を大幅に減らすことが可能です。

多焦点眼内レンズの種類は年々進化しており、従来の2焦点タイプから、より自然な見え方を実現する3焦点、さらには5焦点タイプまで登場しています。
2025年現在、日本で選定療養で認定されている多焦点眼内レンズの主なものは、遠方・中間・近方の3点での見え方を提供するものや焦点を広くする焦点深度拡張型の眼内レンズが主流です。

多焦点眼内レンズの主なメリット

多焦点眼内レンズの最大の魅力は、眼鏡に頼らない生活を実現できる可能性が高いことです。
具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。

複数の距離でクリアな視界を実現

多焦点眼内レンズの最大のメリットは、遠方から近方まで複数の距離で見えやすくなることです。特に3焦点タイプでは、遠方(5m以遠)・中間(70cm)・近方(40cm)の3点での優れた見え方を提供します。これにより、テレビを見る、運転する、パソコン作業をする、本を読むなど、日常生活のさまざまな場面で眼鏡なしでも快適な視界が得られます。

実際の臨床試験では、3焦点タイプの多焦点眼内レンズを使用した場合、手術後120~180日において両眼かつ裸眼で0.7以上の視力達成率は、遠方、中間のいずれも98.5%という高い結果が報告されています。また、近方においても両眼かつ裸眼で0.4以上の視力達成率が98.5%と良好な結果が出ています。

眼鏡依存度の大幅な低減

多焦点眼内レンズを選択した方の約9割が、眼鏡やコンタクトレンズなしで日常生活を送れるようになったというデータがあります。
海外での調査結果では、術後9カ月~12カ月の患者58名を対象にした調査で、94.8%の患者が術後に眼鏡が不要になったと回答しており、高い満足度を示しています。

眼鏡をかける煩わしさから解放されることで、スポーツやレジャー活動も制限なく楽しめるようになります。また、眼鏡、コンタクトレンズの購入・メンテナンス費用の節約にもつながるでしょう。

長期的な視力の安定性

多焦点眼内レンズは、一度挿入すれば基本的に一生使用できます。定期的な交換が必要なコンタクトレンズと違い、長期的な視力の安定が期待できます。
また、最新の多焦点眼内レンズは、単焦点眼内レンズと同様のレンズプラットフォームを採用しており、後発白内障(PCO)の抑制や術後のレンズ固定位置の安定性にも優れています。

白内障手術自体も日帰りで行われることが多く、回復も比較的早いため、生活への影響を最小限に抑えながら視力改善が期待できます。

多焦点眼内レンズのデメリットと注意点

多焦点眼内レンズには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意すべき点もあります。手術を検討する際には、これらのデメリットもしっかりと理解しておくことが大切です。

コントラスト感度の低下

多焦点眼内レンズは、目に入ってきた光を遠方用と近方用に振り分ける構造になっています。そのため、単焦点眼内レンズと比較して、コントラスト感度(明暗の差を識別する能力)が約15%低下すると言われています。
具体的には、黒い文字が少し薄く見えたり、全体的にもやっとした、視界にワックスがかかったような見え方(ワクシービジョン)を感じる場合があります。特に白内障の進行が軽度の段階で手術を受けると、術後にこのコントラスト低下を強く感じることがあります。

ただし、最近では単焦点とコントラストがほとんど変わらない多焦点眼内レンズも増えており、技術の進歩によってこのデメリットは軽減されつつあります。

ハロー・グレア現象

多焦点眼内レンズを使用すると、特に夜間に光の周りに輪がかかったように見える「ハロー現象」や、光が花火のように広がって見える「グレア現象」が生じることがあります。これは、瞳孔が大きくなる暗い環境で特に起こりやすい現象です。 夜間の運転時に対向車のヘッドライトや街灯を見ると、この現象を強く感じる方もいます。

多くの方は時間の経過とともに脳が適応して気にならなくなりますが、中には長期間気になり続ける方もいらっしゃいます。 特にタクシーやトラック、バスの運転手など、夜間の運転が多い職業の方は、多焦点眼内レンズの選択には慎重になる必要があるでしょう。

高額な費用負担

多焦点眼内レンズは、保険適用の単焦点眼内レンズと比較して費用が高額になります。2025年現在、多焦点眼内レンズを用いた手術は「選定療養」または「自由診療」として扱われています。
選定療養制度を利用すると、白内障手術自体は保険適用(3割負担の方で5万円前後)となり、多焦点眼内レンズの差額分と追加検査費用のみが自己負担となります。それでも、レンズの種類によって価格が変動しますが、片眼で30万円程度の自己負担が発生します。

両眼の手術を行う場合は、その倍の費用がかかることを考慮する必要があります。ただし、長期的にコンタクトレンズや眼鏡代が節約できることを考えると、トータルコストでは見合う場合もあります。

多焦点眼内レンズが向いている人・向いていない人

多焦点眼内レンズは万人に適しているわけではありません。ご自身のライフスタイルや目の状態によって、適している方と適していない方がいます。
ここでは、多焦点眼内レンズが向いている人と向いていない人の特徴をご紹介します。

多焦点眼内レンズが向いている人

眼鏡やコンタクトレンズへの依存度を下げたい方は、多焦点眼内レンズの良い候補です。特に、スポーツや旅行など活動的なライフスタイルを送る方や、日常的に様々な距離での作業を行う方には大きなメリットがあります。

また、白内障以外に目の病気がなく、ハロー・グレアといった術後の副症状をある程度許容できる方にも向いています。
手術後の見え方に対して現実的な期待を持ち、適応期間を受け入れられる柔軟性のある方も良い候補となるでしょう。

多焦点眼内レンズが向いていない人

夜間に運転することが多い方、特にタクシー・トラック・バスの運転手の方には、ハロー・グレア現象の影響を受けやすいため、多焦点眼内レンズはあまり向いていません。
また、デザイナー、プログラマー、カメラマンなど、近方や手元を集中して見たり、微細な色の違いを判別する作業が多い職業の方も、単焦点レンズの方が作業効率が良い場合があります。

瞳孔の大きさが小さい方や、緑内障や眼底疾患など白内障以外の目の病気がある方も、多焦点眼内レンズの効果が十分に発揮されない可能性があります。見え方に対して特別神経質な方も、多焦点眼内レンズの副作用に適応しにくい傾向があります。
これらの条件に当てはまる方は、単焦点眼内レンズの方が適しているかもしれません。

多焦点眼内レンズの種類と選び方

多焦点眼内レンズには様々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。自分のライフスタイルや視力のニーズに合ったレンズを選ぶことが、術後の満足度を高める鍵となります。

焦点数による分類

多焦点眼内レンズは、焦点の数によって大きく分類されます。

・2焦点タイプ:遠方と近方の2点にピントが合います。中間距離はやや見えにくい場合があります。
・3焦点タイプ:遠方・中間・近方の3点にピントが合います。例えば「パンオプティクス」は、遠方(5m以遠)・中間(60cm)・近方(40cm)の3点での優れた見え方を提供します。
・連続焦点型:特定の距離だけでなく、ある範囲内で連続的にピントが合います。
・5焦点タイプ:より多くの距離にピントを合わせることができる最新タイプです。2025年現在、自由診療で提供されています。

乱視矯正機能の有無

乱視がある方には、乱視矯正機能を持つ「トーリック」タイプの多焦点眼内レンズが適しています。せっかく多焦点眼内レンズを挿入しても、乱視が残ってしまうとメガネが必要になってしまうことがあります。

例えば「パンオプティクス トーリック」は、老視と乱視を同時に矯正できる3焦点眼内レンズです。乱視が強い方はこのタイプを選ぶことで、メガネの使用頻度が減らせる可能性が高くなります。

レンズ素材と設計

多焦点眼内レンズの素材や設計も重要な選択ポイントです。例えば、クラレオンなど実績のあるプラットフォームを採用したレンズは、後発白内障(PCO)の抑制や術後のレンズ固定位置の安定性に優れています。

また、最新の多焦点眼内レンズは、ハロー・グレア現象を軽減する工夫が施されているものもあります。光の利用効率が高いレンズは、より鮮明な視界を提供できる可能性があります。

多焦点眼内レンズ手術の費用と保険制度

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術の費用は、単焦点眼内レンズを使用する場合と比べて高額になります。ここでは、2025年現在の費用体系と保険制度について解説します。

選定療養制度について

2020年4月から、国内承認済みの多焦点眼内レンズを使用する白内障手術は「選定療養」という枠組みで行われるようになりました。
選定療養制度とは、追加費用を負担することで、保険適用の治療と保険適用外の治療を併せて受けることができる制度です。 選定療養では、白内障手術自体は通常の単焦点眼内レンズと同様に保険適用となります。

多焦点眼内レンズを選択することで増える費用(多焦点眼内レンズの代金-単焦点眼内レンズの代金)および追加検査費用のみを自費で支払う形になります。例えば、3割負担の保険で多焦点眼内レンズ手術を受ける場合、白内障手術の保険適用部分の自己負担額(約5万円)に加えて、多焦点眼内レンズの差額(約30万円)を支払うことになります。

両眼の手術を行う場合は、その倍の費用がかかります。

自由診療について

国内未承認の多焦点眼内レンズを移植する場合や、レーザー白内障手術の場合、費用はすべて実費となります(保険診療対象外)。自由診療の場合、片眼あたり100万円程度の費用になることもあります。
ただし、自由診療では最新の技術や国内未承認の高性能レンズを選択できるというメリットがあります。

例えば、5焦点眼内レンズなどは自由診療でのみ受けられる場合があります。 費用面では高額ですが、見え方の質にこだわられる方にとっては投資価値があると考える方もいる様です。

多焦点眼内レンズ手術の流れと回復期間

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、基本的な流れは通常の白内障手術と同じです。ただし、術前検査がより詳細に行われる点や、レンズ選択のカウンセリングが重要になる点が異なります。

術前検査とカウンセリング

多焦点眼内レンズの手術を受ける前には、通常の白内障手術よりも詳細な検査が行われます。具体的には、角膜形状解析、瞳孔径測定、眼軸長測定などが行われます。

これらの検査結果をもとに、最適なレンズの種類や度数が決定されます。 また、患者さんのライフスタイルや視力に関する希望、職業などを詳しくヒアリングし、最適なレンズ選択のためのカウンセリングが行われます。

この段階で、多焦点眼内レンズのメリット・デメリットについても詳しく説明を受け、十分に理解した上で眼内レンズを決断することが重要です。

手術当日の流れ

手術当日は、点眼麻酔を行った後、約10~15分程度で手術が完了します。基本的には日帰り手術で、入院の必要はありません。
手術では、まず角膜に小さな切開を作り、超音波で水晶体を砕いて吸引除去します。その後、折りたたまれた状態の多焦点眼内レンズを挿入し、眼内で広げて固定します。縫合が必要ない小切開手術が一般的です。

回復期間と術後の見え方

手術直後は、見え方がぼやけたり、違和感を感じたりすることがありますが、多くの場合、数日から1週間程度で基本的な視力は回復します。
多焦点眼内レンズの場合、脳が新しい見え方に適応するまでに1~3ヶ月程度かかることがあります。 特にハロー・グレア現象は、手術直後は強く感じる方が多いですが、時間の経過とともに脳が適応して気にならなくなることが多いです。

ただし、個人差があり、長期間気になり続ける方もいらっしゃいます。 術後は定期的な検診が必要で、点眼薬の使用や生活上の注意点について医師の指示に従うことが大切です。

まとめ:多焦点眼内レンズ選択の前に考えるべきこと

多焦点眼内レンズは、白内障治療と同時に老眼も改善できる画期的な選択肢です。眼鏡依存度を大幅に減らし、より自由な生活を実現できる可能性がありますが、すべての方に適しているわけではありません。
老眼が出始めたから老眼矯正のために手術をすると見づらさが出てしまうことがあります。

多焦点眼内レンズを選択する前に、以下のポイントをしっかりと検討することをおすすめします。

・ご自身のライフスタイルや視力に関するニーズは何か
・コントラスト感度の低下やハロー・グレア現象などのデメリットを許容できるか
・費用対効果は自分にとって見合うものか
・白内障以外の目の病気はないか
・手術後の適応期間や、100%完璧な視力が得られない可能性を受け入れられるか
・メガネを使用する可能性を受け入れられるか

これらのポイントについて、眼科医とじっくり相談し、十分な情報を得た上で意思決定することが大切です。また、手術を受ける医療機関の実績や、医師の経験も重要な選択基準となります。

白内障手術は一生に一度の大切な選択です。多焦点眼内レンズのメリット・デメリットを十分に理解し、ご自身で納得したレンズを選択をすることで、手術後の満足度を高めることができるでしょう。

詳しい情報や個別のご相談は、経験豊富な眼科専門医のいる医療機関での受診をおすすめします。

当院でも多焦点眼内レンズに関する詳しいカウンセリングを行っておりますので、お気軽にご相談ください。
梅の木眼科クリニックでは、患者様一人ひとりのライフスタイルに合わせた最適な治療法をご提案しています。白内障治療や多焦点眼内レンズについてのご質問は、お気軽にお問い合わせください。

【著者情報】熊谷悠太 

日本眼科学会認定
眼科専門医

2003年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業、同大学病院眼科学教室入局
2009年 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了、桜ヶ丘中央病院眼科部長
2016年 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科主任医長
2019年 梅の木眼科クリニック開院

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