老眼の進行を抑える5つの方法〜眼科医が教える予防と対策
2025/11/19
老眼とは?加齢による自然な目の変化
「最近、スマホの文字が見えにくい」「新聞を読むとき、腕を伸ばさないと見えない」といった経験はありませんか?これらは老眼の始まりかもしれません。
老眼は病気ではなく、加齢に伴う自然な目の変化です。正式には「老視」と呼ばれ、40代前後から多くの方が自覚症状を感じ始めます。
私が日々の診療で多くの患者さんから相談を受ける悩みの一つでもあります。
老眼の主な原因は、目の中でカメラのレンズのような働きをする「水晶体」の老化です。若い頃は柔らかく弾力のあった水晶体が、年齢とともに硬くなっていきます。そして、ピント調節を担う「毛様体筋」の力も衰えてくるのです。
この変化によって、近くのものにピントを合わせる能力が低下し、手元の文字が見えにくくなったり、目が疲れやすくなったりします。
老眼は誰にでも起こる現象ですが、その進行速度や症状の現れ方には個人差があります。
では、この避けられない老化現象に対して、私たち眼科医はどのようなアドバイスをしているのでしょうか?今回は、老眼の進行を緩やかにする効果的な方法を5つご紹介します。
老眼の進行を抑える方法①:目のトレーニング
老眼の進行を緩やかにする第一の方法は、目のトレーニングです。ピント調節を担う毛様体筋を鍛えることで、調節機能をサポートし、目の疲れを軽減する効果が期待できます。
私がよく患者さんに勧めているのが「遠近ウォッチング」というシンプルなトレーニングです。
やり方は次のとおりです。
腕を伸ばして親指を立て、爪を1秒間見つめます
視線を3~5メートル先に向け、対象物を決めて1秒間見つめます
1と2を5往復以上繰り返します
このトレーニングは、普段あまり使わない筋肉を刺激することで血流が促進されます。
手順2では、指と対象物が一直線になるように意識するとより効果的です。短時間で手軽にできるので、デスクワークの合間や通勤中など、隙間時間を活用して習慣にしてみましょう。
もう一つおすすめなのが「目の体操」です。
目を上下、左右、斜めに動かし、さらに時計回りと反時計回りに大きく回します。このとき、顔は動かさず目だけを動かすのがポイントです。
これらのトレーニングは、毛様体筋や目の周りの筋肉の血流を促進し、凝りを和らげる効果があります。1日に数回、各30秒程度行うだけでも効果が期待できますよ。
老眼の進行を抑える方法②:目のマッサージとツボ押し
目の疲れを和らげ、老眼の進行を緩やかにするためには、目のマッサージやツボ押しも効果的です。
特に手元の見えにくさを感じ始めたばかりの頃や症状が軽い初期段階では、積極的に取り入れたい方法です。
目の疲れの解消に効果的なツボは、次の3つです。
晴明(せいめい):目頭の内側にある少し鼻よりのくぼみのところ。疲れ目の解消、目元のシワ改善に効果があります。
太陽(たいよう):こめかみから目尻にある少しくぼんでいるところ。疲れ目の解消、かすみ目の改善に効果があります。
顴髎(けんりょう):頬骨の下のくぼみのところ。眼精疲労解消、目の黄ばみ解消、目元やおでこのシワ予防に効果があります。
これらのツボを、親指や人差し指の腹を使って優しく押します。強く押しすぎないよう注意しながら、1か所につき5秒程度、3回ほど繰り返しましょう。
また、温かいタオルで目を覆うホットアイマスクも、目の周りの血行を促進し、疲れた目をリラックスさせるのに役立ちます。特に長時間のデスクワークやスマホ使用後におすすめです。
私の臨床経験からも、これらのケアを日常的に行っている患者さんは、老眼の進行が比較的緩やかな傾向があります。ただし、効果には個人差がありますので、無理のない範囲で継続することが大切です。
老眼の進行を抑える方法③:目に良い栄養素の摂取
老眼の進行を抑えるためには、目の健康をサポートする栄養素を積極的に摂取することも重要です。
特に以下の栄養素は、水晶体の健康維持や酸化ストレスからの保護に役立ちます。
まず注目したいのが、抗酸化作用を持つビタミンA、C、Eです。これらは活性酸素から目を守り、水晶体の透明度を維持するのに役立ちます。
ビタミンAはにんじんやほうれん草、ビタミンCはいちごやブロッコリー、ビタミンEはナッツ類や植物油に多く含まれています。
また、ブルーベリーなどに含まれるアントシアニンも目の健康に良いとされています。アントシアニンには毛細血管を強化し、目の血流を改善する効果があります。
さらに、DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸も目の健康維持に重要です。青魚(さば、さんま、いわしなど)に豊富に含まれており、ドライアイの予防や改善にも効果があります。
ルテインやゼアキサンチンといったカロテノイドも見逃せません。これらは網膜の黄斑部に集まり、有害な光から目を守る「天然のサングラス」として機能します。ほうれん草やケール、卵黄などに多く含まれています。
日々の食事でこれらの栄養素をバランスよく摂ることが理想ですが、食生活だけでは十分な量を摂取するのが難しい場合は、サプリメントの利用も一つの選択肢です。
ただし、サプリメントを利用する際は、医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
老眼の進行を抑える方法④:ブルーライト対策と適切な照明
現代社会では、スマートフォンやパソコン、タブレットなどのデジタル機器を使用する時間が増えています。これらの機器から発せられるブルーライトは、目の疲労を引き起こし、老眼の症状を悪化させる可能性があります。
ブルーライトは波長の短い高エネルギーの光で、網膜まで到達し、長時間浴び続けると目の調節機能に負担をかけます。特に就寝前のブルーライト浴びは、睡眠の質も低下させるため注意が必要です。
対策としては、ブルーライトカット機能付きのメガネやスクリーンフィルターの使用が効果的です。
また、デジタル機器の画面設定でブルーライトを軽減するナイトモードを活用するのもおすすめです。
さらに、作業環境の照明にも気を配りましょう。暗すぎる環境での読書やデスクワークは、目に余計な負担をかけます。かといって、明るすぎる照明や直接目に入る光も目の疲れの原因になります。
理想的なのは、自然光に近い間接照明です。作業面が適切に照らされ、かつ光源が直接目に入らないよう配置しましょう。
また、定期的に遠くを見て目を休ませる「20-20-20ルール」(20分ごとに、20フィート(約6メートル)先を20秒間見る)も実践してみてください。
私の診療経験からも、デジタルデバイスの使用時間が長い患者さんほど、老眼の症状を早く自覚する傾向があります。適切なブルーライト対策と照明環境の整備は、目の健康維持に欠かせない要素です。
老眼の進行を抑える方法⑤:適切な度数の老眼鏡の使用
老眼の症状が現れ始めたら、適切な度数の老眼鏡を使用することも大切です。
「老眼鏡を使うと目が悪くなる」と心配される方もいますが、それは誤解です。むしろ、無理に目を凝らして見ようとすると、目の疲労が蓄積し、老眼の進行を早める可能性があります。
老眼鏡は、硬くなった水晶体の調節力を補い、近くのものを見るときの負担を軽減します。これにより、毛様体筋の過度な緊張を防ぎ、目の疲れを軽減することができるのです。
ただし、市販の老眼鏡を選ぶ際は注意が必要です。自分に合わない度数の老眼鏡を使用すると、かえって目に負担をかけることになります。また、左右の視力に差がある場合や乱視がある場合は、市販の老眼鏡では対応できないことがあります。
そのため、老眼の症状を感じ始めたら、まずは眼科を受診して適切な検査を受けることをお勧めします。眼科医の診察を受ければ、自分に最適な度数の老眼鏡を処方してもらえます。
また、必要に応じて遠近両用メガネやコンタクトレンズなど、ライフスタイルに合った視力矯正方法を提案することも可能です。
私の診療では、患者さん一人ひとりの生活習慣や仕事内容、趣味なども考慮して、最適な視力矯正方法をご提案するようにしています。早めに適切な対応をすることで、快適な視生活を維持し、老眼の進行を緩やかにすることができるのです。
老眼と間違えやすい目の病気に注意
老眼の症状と似た「近くが見えにくい」という症状は、他の眼疾患でも現れることがあります。特に注意が必要なのが白内障です。
白内障は水晶体が濁る病気で、初期症状として「ぼんやり見える」「まぶしく感じる」などがあります。進行すると近くも遠くも見えにくくなりますが、初期段階では特に近くの見えにくさを自覚することがあります。
また、緑内障や加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症などの病気も、視力低下を引き起こします。
これらの病気は早期発見・早期治療が重要ですので、「単なる老眼だろう」と自己判断せず、定期的に眼科検診を受けることをお勧めします。
特に、急激な視力低下、視野の一部が欠ける、歪んで見える、まぶしさが強いなどの症状がある場合は、すぐに眼科を受診してください。
私たち眼科医は、単に視力を測定するだけでなく、眼底検査や眼圧測定など様々な検査を通じて、目の健康状態を総合的に評価します。
40歳を過ぎたら、症状がなくても年に一度は眼科検診を受けることをお勧めします。
まとめ:老眼との上手な付き合い方
老眼は誰にでも起こる自然な加齢現象です。完全に防ぐことはできませんが、今回ご紹介した5つの方法を実践することで、その進行を緩やかにし、快適な視生活を維持することができます。
目のトレーニングで毛様体筋を鍛える
目のマッサージやツボ押しで血行を促進する
目に良い栄養素を積極的に摂取する
ブルーライト対策と適切な照明環境を整える
必要に応じて適切な度数の老眼鏡を使用する
これらの方法は、単独で行うよりも組み合わせて実践することで、より効果的です。また、定期的な眼科検診も忘れずに受けましょう。
老眼は誰もが経験する変化ですが、その進行度や対処法は人それぞれです。ご自身の目の状態や生活習慣に合わせた対策を取り入れることが大切です。
目は私たちの大切な感覚器官です。日々のケアを怠らず、いつまでも健やかな目で豊かな視生活を送りましょう。何か気になることがあれば、お気軽に眼科医にご相談ください。
詳しい検査や治療についてのご相談は、梅の木眼科クリニックまでお気軽にお問い合わせください。
皆様の目の健康をサポートいたします。
【著者情報】熊谷悠太
日本眼科学会認定 眼科専門医
2003年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業、聖マリアンナ医科大学病院眼科学教室入局
2009年 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了、桜ヶ丘中央病院眼科部長
2016年 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科主任医長
2019年 梅の木眼科クリニック開院

