白内障手術後にレンズがずれる?放置するとどうなるか原因と対処法を解説
2026/04/13
白内障手術を受けた後、「なんだか見え方がおかしい」「視界の端に影が見える」「ものが揺れて見える」といった症状を感じたことはありませんか?
それは、眼内レンズの位置がずれている可能性があります。
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入します。多くの方は手術後も問題なく生活を送れますが、まれに眼内レンズがずれてしまうことがあります。このずれを放置すると、視力低下や眼圧上昇、網膜剥離といった深刻なトラブルにつながる恐れもあるのです。
この記事では、眼内レンズがずれる原因や症状、放置した場合のリスク、そして再手術の可能性まで、具体的に解説します。既存の「レンズ寿命」や「術後注意点」とは異なり、"物理的なズレ"というトラブルに特化した内容です。
眼内レンズがずれるとは?白内障手術後に起こる「脱臼」の基礎知識
白内障手術では、濁った水晶体の中身を取り除き、残った透明な袋(水晶体嚢)の中に眼内レンズを挿入します。
この水晶体嚢は、チン氏帯と呼ばれるハンモックのような組織で目の中に支えられています。
しかし、加齢や外傷、特定の疾患などによってチン氏帯が弱くなると、水晶体嚢と眼内レンズが一緒にずれてしまうことがあります。これを**眼内レンズ脱臼**といいます。
ずれの程度によって症状は異なりますが、進行すると視力が低下し、日常生活に支障をきたすこともあります。
眼内レンズ脱臼の種類と進行度
眼内レンズのずれには、大きく分けて3つの段階があります。
軽度のずれ(偏位):レンズが少し中心から外れている状態。乱視が強くなる程度で、視力低下を気にせず生活している方もいます。
中等度のずれ(亜脱臼):レンズの位置が大きくずれ、光の通り道にレンズの縁が重なる状態。線が見えたり、ものが揺れて見える症状が出ます。
完全脱臼(落下):チン氏帯が完全に外れ、眼内レンズが目の奥に落下してしまう状態。ピントが合わなくなり、視界がぼやけます。
一度脱臼してしまうと、自然に回復することはなく、徐々に進行していきます。
眼内レンズがずれる原因・・・なぜ手術後に起こるのか
眼内レンズがずれる主な原因は、水晶体嚢を支えるチン氏帯の脆弱化です。 では、どのような要因でチン氏帯が弱くなるのでしょうか?
加齢による自然な変化
年齢を重ねると、チン氏帯の弾力性が失われ、徐々に弱くなっていきます。
白内障手術後、数年から十数年経過してから眼内レンズがずれるケースの多くは、この加齢による変化が原因です。
外傷や打撲の影響
目をぶつけたり、強い衝撃を受けたりすると、チン氏帯が損傷し、眼内レンズがずれやすくなります。
外傷が原因で白内障になった方(外傷性白内障)は、若い年齢でも眼内レンズ脱臼のリスクが高まります。
特定の疾患や体質
以下のような疾患や体質を持つ方は、眼内レンズがずれやすい傾向があります。
落屑症候群:目の中に白い粉のような物質が蓄積し、チン氏帯が弱くなる疾患
強度近視:眼球が大きく伸びているため、チン氏帯に負担がかかりやすい
アトピー性皮膚炎:繰り返し目を擦る習慣があり、チン氏帯が傷害されやすい
網膜色素変性:網膜の変性に伴い、チン氏帯も弱くなることがある
硝子体手術の既往:過去に硝子体手術を受けた方は、眼内構造の変化によりリスクが高まる
手術時のトラブル
白内障手術中に後嚢破損やチン氏帯断裂などのトラブルが起こった場合、術後に眼内レンズがずれやすくなることがあります。
また、手術後の前嚢収縮(水晶体嚢の窓が強く収縮する現象)も、眼内レンズのずれを引き起こす要因となります。
眼内レンズがずれたときの症状・・・こんな見え方に注意
眼内レンズがずれると、どのような症状が現れるのでしょうか?
ずれの程度によって自覚症状は異なりますが、以下のような見え方の変化に注意が必要です。
視界の端に弧状の影や線が見える
眼内レンズの縁が光の通り道に重なると、視界の外側に三日月状や弧状の黒っぽい影が見えることがあります。
これは、眼内レンズの縁で乱反射した光を感じてしまうために起こる現象です。
すべての方に発生するわけではなく、眼内レンズの中心と光軸のずれ、瞳との距離、暗い場所での瞳の開き具合などが絡み合って起こります。
ものが揺れて見える(動揺視)
眼内レンズの位置が不安定になると、頭を動かしたときにレンズも一緒に動き、ものが揺れて見えることがあります。 これを動揺視といい、日常生活で非常に不快な症状です。
姿勢によって見え方が変わる
チン氏帯の大部分が外れると、頭の位置によって眼内レンズの位置が変わります。
「座っているときは見えるけど、仰向けに寝ると見えなくなる」といった症状が出る場合があります。重力の関係で、仰向けに寝るとレンズが瞳孔からずれてしまうのが原因です。
視力が急激に低下する
眼内レンズが完全に落下すると、ピントが全く合わなくなり、視界がぼやけます。
白内障手術後に急に見えにくくなった場合は、後発白内障の可能性もありますが、眼内レンズの脱臼も疑う必要があります。
乱視が強くなる
眼内レンズが少し傾いたり中心から外れたりすると、乱視が強くなることがあります。 メガネを新調しても見え方が改善しない場合は、眼内レンズのずれが原因かもしれません。
眼内レンズのずれを放置するとどうなる?深刻なリスクとは
眼内レンズのずれを放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか?
軽度のずれであれば経過観察で済む場合もありますが、進行すると深刻な合併症を引き起こす恐れがあります。
視力低下が進行する
眼内レンズのずれが進むと、ピントが合わなくなり、視力がどんどん低下していきます。 日常生活に支障をきたし、転倒や事故のリスクも高まります。
眼圧上昇と緑内障のリスク
眼内レンズが完全に落下すると、目の中の水の流れが妨げられ、眼圧が上昇することがあります。
眼圧が高い状態が続くと、緑内障を発症し、視野が欠けていく恐れがあります。
網膜剥離の危険性
眼内レンズが落下すると、網膜に負担がかかり、網膜剥離を引き起こすリスクが高まります。 網膜剥離は早急な治療が必要な疾患であり、放置すると失明の恐れもあります。
虹彩の炎症
眼内レンズがずれると、虹彩(目の色がついた部分)に触れて炎症を起こすことがあります。
炎症が続くと、目の痛みや充血、視力低下などの症状が現れます。
眼内レンズがずれたときの対処法・・・再手術は必要?
眼内レンズがずれた場合、どのような治療が行われるのでしょうか?
症状の程度によって対処法は異なりますが、基本的には手術による治療が必要になります。
軽度のずれの場合
眼内レンズの位置が少しずれている程度で、視力に大きな影響がない場合は、経過観察となることもあります。
ピロカルピン点眼薬で瞳を縮めることで、一時的に症状を軽減できる場合もあります。
ただし、点眼が作用している間だけの効果であり、夜間の運転などに支障をきたすこともあるため、主治医とよく相談する必要があります。
中等度以上のずれ・完全脱臼の場合
眼内レンズの位置が大きくずれている場合や、完全に落下してしまった場合は、再手術が必要です。
手術では、ずれた眼内レンズを取り出し、新しい眼内レンズを目の中に固定します。
再手術の方法
眼内レンズ脱臼に対する再手術には、主に以下の方法があります。
眼内レンズ縫着術:眼内レンズを目の中に糸で縫い付けて固定する方法
眼内レンズ強膜内固定術:眼内レンズの脚を強膜(白目)に作ったトンネルにはめ込んで固定する方法
どちらの方法を選ぶかは、目の状態や医師の判断によって異なります。
再手術の所要時間と回復期間
再手術の所要時間は、通常の白内障手術よりも長く、約30分から1時間程度かかります。また、手術による乱視が増えることが多く、視力の改善には数か月要する場合があります。
梅の木眼科クリニックでも日帰りで治療を行っており、手術の所要時間は目の状況にもよりますが20~30分程度です。
眼内レンズのずれを予防するために・・・術後の注意点
眼内レンズのずれを完全に予防することは難しいですが、リスクを減らすための注意点があります。
目を強くこすらない
目を強くこすると、チン氏帯に負担がかかり、眼内レンズがずれやすくなります。 特にアトピー性皮膚炎の方は、目をこする習慣を改善することが大切です。
外傷を避ける
スポーツや作業中に目を保護し、外傷を避けることが重要です。 保護メガネやゴーグルの着用を心がけましょう。
定期的な眼科検診を受ける
白内障手術後も、定期的に眼科検診を受けることが大切です。
眼内レンズの位置や目の状態を定期的にチェックすることで、早期発見・早期治療につながります。
持病の管理
糖尿病や高血圧などの持病がある方は、適切に管理することで、目の健康を保つことができます。
まとめ:眼内レンズのずれは早期発見・早期治療が大切
白内障手術後に眼内レンズがずれることは、まれではありますが、誰にでも起こりうるトラブルです。
加齢や外傷、特定の疾患などが原因で、水晶体嚢を支えるチン氏帯が弱くなると、眼内レンズがずれてしまいます。
軽度のずれであれば経過観察で済む場合もありますが、進行すると視力低下や眼圧上昇、網膜剥離といった深刻な合併症を引き起こす恐れがあります。
「視界の端に影が見える」「ものが揺れて見える」「姿勢によって見え方が変わる」といった症状がある場合は、早めに眼科を受診しましょう。
眼内レンズのずれは、再手術によって治療することができます。
梅の木眼科クリニックでは、大学病院や市中病院で15年以上の経験を持つ熊谷悠太院長が、診察から手術、術後のフォローまで一貫して対応しています。
白内障手術後の見え方に不安を感じている方、眼内レンズのずれが心配な方は、ぜひ一度ご相談ください。
【著者情報】熊谷悠太
日本眼科学会認定眼科専門医
2003年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業、聖マリアンナ医科大学病院眼科学教室入局
2009年 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了、桜ヶ丘中央病院眼科部長
2016年 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科主任医長
2019年 梅の木眼科クリニック開院

