白内障は視力低下だけじゃない!意外な見え方の変化
2025/11/17
白内障と聞くと、「視力が低下する病気」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
確かに視力低下は白内障の代表的な症状ですが、実はそれだけではありません。白内障によって引き起こされる「見え方の変化」は、私たちの想像以上に多様で、日常生活に様々な影響を及ぼします。
私は眼科医として15年以上にわたり、数多くの白内障患者さんを診てきました。その経験から、白内障による見え方の変化は人それぞれ異なり、時に予想外の症状に悩まされる方も少なくないことを実感しています。
この記事では、白内障によって起こる意外な見え方の変化について詳しく解説します。
症状を正しく理解することで、早期発見・早期治療につなげていただければ幸いです。
白内障とはどのような病気なのか
白内障は、目の中にある水晶体が濁ることによって起こる病気です。水晶体はカメラでいうレンズの役割を果たしており、この部分が濁ると、光がうまく網膜に届かなくなります。
主に加齢が原因となりますが、外傷や薬の副作用、糖尿病などの全身疾患が原因で発症することもあります。80歳代ではほぼ100%の方に何らかの白内障が見られるといわれています。
白内障は進行性の病気です。初期段階では自覚症状がほとんどなく、徐々に進行していきます。そのため、定期的な眼科検診が重要となります。
どうですか?あなたも最近、見え方に違和感を感じることはありませんか?
白内障による意外な見え方の変化
白内障は単に「見えにくくなる」だけではありません。実際には様々な見え方の変化が現れます。
ここでは特に意外と感じられる症状について詳しく解説します。
光がまぶしく感じる(羞明)
白内障になると、水晶体の濁りによって光が乱反射し、まぶしさを強く感じるようになります。特に夜間の運転中に対向車のヘッドライトや街灯がまぶしく感じる方が多いです。
この症状は「羞明(しゅうめい)」と呼ばれ、白内障の中でも皮質白内障や後嚢下白内障で特に強く現れます。水晶体が白く濁ることで光の散乱が生じやすくなるためです。
私の診察室でも「最近、夜の運転がしづらい」「街灯がまぶしくて目が痛い」といった訴えをよく耳にします。
これらは視力検査では見つけられない白内障の重要なサインなのです。
色の見え方が変化する
白内障が進行すると、水晶体が黄色や茶色に変色することがあります。これにより、全体的に黄色っぽく見えたり、色の識別が難しくなったりします。
特に青や紫などの寒色系の色が見分けにくくなり、白い紙がクリーム色に見えるといった現象が起こります。画家のモネは晩年に白内障を患い、その影響で作品の色調が赤や黄色の暖色系に偏っていったことが知られています。
患者さんの中には「洋服の色選びが難しくなった」「以前と同じ色に見えない」と悩む方も少なくありません。
ものが二重に見える(複視)
白内障が進行すると、水晶体の一部だけが濁ることで光が複数の経路で網膜に届き、一つのものが二重に見える「単眼複視」という症状が現れることがあります。
これは特に核白内障(水晶体の中心部が濁るタイプ)で起こりやすい症状です。片目を閉じても二重に見える場合は、白内障による単眼複視の可能性があります。
「最近、文字を読むと二重に見えて困る」という訴えは、実は白内障のサインかもしれません。
白内障の種類によって異なる見え方の変化
白内障にはいくつかの種類があり、濁りが生じる場所によって症状が異なります。
それぞれの特徴的な見え方の変化について解説します。
核白内障:近視化と色の変化
水晶体の中心部(核)が濁る「核白内障」では、水晶体の屈折率が変化することで一時的に近視が進行する「核性近視」が起こります。
老眼で使っていた老眼鏡が合わなくなり、かえって近くが見やすくなるという不思議な現象が起きることもあります。
患者さんから「最近、近くの新聞が老眼鏡なしで読めるようになった」という話を聞くことがありますが、これは白内障の進行によるものかもしれません。
また、核白内障では水晶体が黄色〜茶色に変色するため、全体的に黄色っぽく見えるようになります。青や紫などの色が識別しにくくなり、白い壁や紙がクリーム色に見えるといった変化が現れます。
皮質白内障:まぶしさと視力変動
水晶体の外側(皮質)から濁る「皮質白内障」では、特に光のまぶしさを強く感じるようになります。水晶体の濁りが光を散乱させるためです。
また、明るい場所と暗い場所での視力の差が大きくなり、「晴れた日の外出が辛い」「暗いレストランでメニューが読めない」といった症状が現れます。
私の診察室では「晴れた日に外出すると目が痛い」という訴えをよく耳にしますが、これは皮質白内障の可能性を示唆しています。
後嚢下白内障:急激な視力低下と強いまぶしさ
水晶体の後ろ側(後嚢)が濁る「後嚢下白内障」は、他のタイプと比べて進行が早く、視力低下も急激に起こりやすいのが特徴です。
また、光のまぶしさも非常に強く感じられます。特に若年性の白内障や、ステロイド薬の長期使用による白内障に多いタイプです。
「最近急に見えにくくなった」「光がまぶしくて外出できない」という場合は、後嚢下白内障の可能性があります。
白内障による見え方の変化が日常生活に与える影響
白内障による見え方の変化は、私たちの日常生活に様々な影響を及ぼします。特に高齢者の場合、これらの症状が生活の質を大きく低下させることがあります。
運転への影響
白内障は運転能力に大きな影響を与えます。特に夜間の運転では、対向車のヘッドライトがまぶしく感じたり、信号の色が判別しづらくなったりします。
実際、白内障による視機能の低下が交通事故のリスクを高めるという研究結果もあります。安全のためには、症状が気になり始めたら早めに眼科を受診することをお勧めします。
あなたは夜間の運転に不安を感じることはありませんか?
転倒リスクの増加
白内障によるコントラスト感度の低下や立体視の障害は、段差の認識を困難にし、転倒リスクを高めます。特に階段の昇り降りや、薄暗い場所での歩行が危険になります。
高齢者の転倒は骨折などの重大な怪我につながることがあり、健康寿命を縮める原因にもなりかねません。白内障の治療は転倒予防の観点からも重要なのです。
趣味や社交活動への影響
読書や裁縫、絵画鑑賞などの趣味活動が困難になることで、生活の質が低下することがあります。また、人の顔が認識しづらくなることで、社交活動が減少し、社会的孤立を招くこともあります。
私の患者さんの中には「趣味の読書ができなくなって楽しみが減った」「友人の顔がよく見えず、外出が億劫になった」と話す方もいます。
白内障の治療によってこれらの活動を取り戻せることは、生活の質を大きく向上させる要因となります。
白内障の早期発見と対処法
白内障は早期発見・早期治療が重要です。自覚症状がなくても、40歳を過ぎたら定期的な眼科検診を受けることをお勧めします。
自分でできるチェック方法
以下のような症状に心当たりがある場合は、白内障の可能性があります。
明るい場所でまぶしさを強く感じる
夜間の運転で対向車のヘッドライトがまぶしい
色がくすんで見える、または黄色っぽく見える
新しい眼鏡を作っても見え方がすっきりしない
ものが二重に見える(片目で見ても二重に見える)
視力が徐々に低下している,近視がどんどん強くなっていく
これらの症状がある場合は、早めに眼科を受診しましょう。
白内障の治療法
白内障の根本的な治療法は手術です。濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズを挿入する手術を行います。
現在の白内障手術は非常に安全で効果的な治療法となっています。
手術は通常10〜15分程度で終わり、多くの場合は日帰りで行われます。術後の回復も比較的早く、多くの患者さんが手術翌日から日常生活に戻ることができます。
初期段階では、眼鏡の度数調整や生活習慣の改善で対応することもありますが、これらは進行を遅らせる対症療法であり、白内障そのものを治すものではありません。
白内障手術後の見え方の変化
白内障手術を受けると、多くの患者さんが「世界が明るくなった」「色鮮やかに見えるようになった」と驚きの声を上げます。これは長年かけて徐々に進行した白内障の影響を実感する瞬間です。
特に核白内障で水晶体が黄色く変色していた場合、手術後に青や紫の色が鮮やかに見えるようになることがあります。「病院の白い壁が、本当に白く見える」と感動される方も少なくありません。
また、まぶしさや複視などの症状も改善し、夜間の運転がしやすくなったという声もよく聞かれます。
白内障手術は単に視力を回復させるだけでなく、色彩豊かな世界を取り戻す手術でもあるのです。
ただし、手術直後は眼内レンズに慣れるまで違和感を覚えることもあります。
また、術後に一時的に光がまぶしく感じることもありますが、徐々に適応していくことが多いです。
まとめ:白内障による見え方の変化を知り、早期対応を
白内障は単なる視力低下だけでなく、光のまぶしさ、色の見え方の変化、ものが二重に見えるなど、様々な見え方の変化をもたらします。これらの症状は日常生活に大きな影響を与え、生活の質を低下させることがあります。
白内障は早期発見・早期治療が重要です。40歳を過ぎたら定期的な眼科検診を受け、見え方に違和感を感じたら早めに相談することをお勧めします。
現代の白内障手術は安全性が高く、多くの場合日帰りで行うことができます。手術によって明るく鮮やかな世界を取り戻し、生活の質を向上させることができるのです。
見え方の変化に気づいたら、ぜひ一度眼科を受診してください。私たち眼科医が皆さんの目の健康をサポートします。
もし白内障についてさらに詳しく知りたい方や、症状でお悩みの方は、ぜひ梅の木眼科クリニックにご相談ください。経験豊富な専門医が丁寧に診察し、最適な治療をご提案いたします。
詳しくは梅の木眼科クリニック公式サイトをご覧ください
【著者情報】熊谷悠太
日本眼科学会認定 眼科専門医
2003年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業、聖マリアンナ医科大学病院眼科学教室入局
2009年 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了、桜ヶ丘中央病院眼科部長
2016年 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科主任医長
2019年 梅の木眼科クリニック開院

