白内障は若い世代でも発症する?知られざる5つの原因と対策
2025/11/17
白内障は若い世代でも発症する?その実態
白内障というと高齢者に多い病気というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。確かに加齢に伴って発症する老人性白内障が最も一般的です。
しかし、実は若い世代でも白内障になることがあります。20代や30代、さらには10代後半でも発症する例が見られているのです。
私は眼科医として15年以上にわたり数多くの白内障患者さんを診てきましたが、近年は若年性白内障の患者さんが増加傾向にあると感じています。
若い方の場合、症状の進行が早いケースが多く、早期発見・早期治療が特に重要です。
白内障とは、目の中のレンズにあたる水晶体が白く濁ってしまう病気です。水晶体は本来無色透明ですが、これが濁ることで「物がぼやけて見える」「霧がかかったように見える」「光がまぶしく感じる」などの症状が現れます。
60歳以上の方では8割以上が何らかの白内障を持っているといわれていますが、若年性白内障は30代〜40代で発症することもあり、中には10代後半から症状が出ることもあるのです。
若年性白内障の5つの主な原因
若い世代で白内障が発症する原因はいくつかあります。主な原因として以下の5つが挙げられます。
1. 糖尿病による若年性白内障
糖尿病は若年性白内障の大きな原因の一つです。特に血糖コントロールが不良な状態が続くと、白内障のリスクが高まります。
実際、糖尿病患者さんは非糖尿病の方と比べて約5倍も白内障になりやすいという報告があります。
特にⅠ型糖尿病は若い年齢で発症することが多く、注意が必要です。
30〜39歳では0.7%、40〜49歳では1.8%の方が糖尿病に罹患しているというデータもあり、若い世代でも決して珍しい病気ではありません。
定期的な健康診断を受けていない若い方の中には、自覚症状がないまま糖尿病が進行し、気づいたときには白内障も進行していたというケースも少なくないのです。
2. ステロイド薬の影響
ステロイド薬は様々な炎症を抑える効果があるため、多くの疾患の治療に使用されています。
しかし、長期間の使用によって白内障のリスクが高まることが知られています。
特に内服薬や吸入薬として使用した場合、白内障を引き起こす可能性が高くなります。アトピー性皮膚炎や喘息などの治療でステロイド薬を長期間使用している若い方は、白内障の発症リスクが高まるため注意が必要です。
3. 外傷による白内障
目に強い衝撃を受けることで、若い年齢でも白内障が発症することがあります。
スポーツ中の事故や交通事故など、目に直接的な衝撃が加わった場合、水晶体が損傷して白内障が生じる可能性があります。野球やテニスのボールが目に当たったり、目に異物が刺さったりした場合などが典型的な例です。
外傷による白内障は、受傷後すぐに発症することもあれば、数年経ってから徐々に進行することもあります。
4. アトピー性皮膚炎と白内障
アトピー性皮膚炎の患者さんに白内障が多く見られることが知られています。これは「アトピー性白内障」と呼ばれることもあります。
かゆみのためにまぶたをこすったり、たたいたりする行為が影響している可能性が高く、特に利き腕側の目に白内障が生じやすい傾向があります。また、アトピー性皮膚炎の治療に使用されるステロイド薬の影響も考えられます。
アトピー性白内障は進行が非常に早いことが特徴で、20代〜30代の若い方でも、数か月〜半年程度で急速に視力が低下してしまうケースが増えています。
5. 紫外線などの環境要因
強い紫外線に長期間さらされることも、若年性白内障の原因となり得ます。特に屋外での活動が多い方や、紫外線の強い地域に住んでいる方は注意が必要です。
また、近年ではスマートフォンやパソコンなどのデジタル機器から発せられるブルーライトの影響も懸念されていますが、現時点では「スマホ白内障」のような直接的な因果関係は科学的に証明されていません。
ただし、デジタル機器の長時間使用による「デジタル眼精疲労」は実在する症状で、目の疲れやドライアイ、一時的なぼやけ感などを引き起こすことがあります。
これらの症状は白内障と混同されることもあるため、正確な診断が重要です。
紫外線対策として、サングラスやUVカット眼鏡の着用、帽子や日傘の使用などが効果的です。
その他、強度近視の方は若いうちに核性白内障が進行しやすいことが知られています。近視が強い方がどんどん近視が進む場合には白内障の進行を疑った方が良いです。
若年性白内障の症状と見え方の変化
若年性白内障の症状は、加齢による白内障と基本的には同じです。
ただし、進行の速度が速いことが特徴的です。主な症状には以下のようなものがあります。
視力の低下は最も一般的な症状です。眼鏡やコンタクトレンズを使用しても、視力が十分に矯正されなくなります。これは白内障の大きな特徴で、通常の近視や老眼とは異なります。
また、光がまぶしく感じる「羞明(しゅうめい)」も特徴的な症状です。夜間の運転中に対向車のヘッドライトがまぶしく感じたり、晴れた日に外出すると極端にまぶしく感じたりすることがあります。
どうですか?これらの症状に心当たりはありませんか?
さらに、物がかすんで見える、霧がかかったように見える、色の識別が難しくなる、白い壁が黄色く見えるなどの症状も現れます。
特に若い方の場合、これらの症状が急速に進行することがあるため、早めの受診が重要です。
若年性白内障の診断と治療法
若年性白内障の診断は、細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)という特殊な機器を用いた検査で行います。この検査では、水晶体の濁りの程度や位置を詳細に観察することができます。
白内障の治療方法には、主に以下の2つがあります。
1. 点眼薬による治療
初期段階の白内障では、進行を遅らせる目的で点眼薬が処方されることがあります。ただし、点眼薬で白内障を完全に治すことはできません。あくまで進行を遅らせる効果が期待されるものです。
特に若年性白内障の場合、進行が早いことが多いため、点眼薬だけでは十分な効果が得られないことも少なくありません。
2. 手術による治療
白内障の根本的な治療法は手術です。現在主流となっている手術方法は、超音波で濁った水晶体を砕いて吸引除去し、人工の眼内レンズを挿入する「水晶体再建術」です。
この手術は局所麻酔で行われ、通常は日帰りで可能です。手術時間も短く、多くの場合10分から15分程度で終了します。
若年性白内障の場合も、基本的な手術方法は高齢者の場合と同じですが、若い方は回復が早いことが多いという利点があります。
手術に使用する眼内レンズには様々な種類があり、単焦点レンズと多焦点レンズに大別されます。単焦点レンズは健康保険が適用されますが、遠くか近くのどちらか一方にしかピントが合わないため、術後も眼鏡が必要になることがあります。
一方、多焦点レンズは遠くと近くの両方にピントが合うという特徴がありますが、選定療養として扱われるため自己負担となります。
どのようなレンズを選択するかは、患者さんの生活スタイルや希望、経済的な面も考慮して決定します。
若年性白内障の予防と日常生活での対策
白内障は完全に予防することは難しいですが、発症リスクを下げたり、進行を遅らせたりするための対策はあります。
まず、紫外線対策が重要です。外出時にはサングラスやUVカット眼鏡を着用し、帽子や日傘も活用しましょう。特に夏場や海辺など紫外線の強い環境では、より一層の注意が必要です。
バランスの良い食事と適度な運動も大切です。特に抗酸化作用のある栄養素(ビタミンC、ビタミンE、ルテインなど)を含む食品を積極的に摂取することが推奨されます。
また、喫煙は白内障のリスクを高めることが知られていますので、禁煙することも予防につながります。
糖尿病やアトピー性皮膚炎などの基礎疾患がある方は、それらの疾患の適切な管理が白内障予防にも重要です。
特に糖尿病の場合は、血糖コントロールを良好に保つことが大切です。
デジタル機器を長時間使用する方は、適度な休憩を取り、目の疲れを軽減することも重要です。
20分間画面を見たら、20秒間は20フィート(約6メートル)以上離れた場所を見るという「20-20-20ルール」を実践するとよいでしょう。
そして何より大切なのは、定期的な眼科検診です。特に糖尿病やアトピー性皮膚炎がある方、ステロイド薬を長期使用している方は、症状がなくても定期的に眼科を受診することをお勧めします。
まとめ:若年性白内障を恐れず適切に対処しよう
白内障は高齢者だけの病気ではなく、若い世代でも発症することがあります。
特に糖尿病、ステロイド薬の使用、外傷、アトピー性皮膚炎、紫外線などの要因がある方は注意が必要です。
若年性白内障の特徴は進行が早いことですが、早期発見・早期治療によって視力を回復することが可能です。現代の白内障手術は安全性が高く、効果的な治療法として確立されています。
目の健康を守るためには、紫外線対策や生活習慣の改善、定期的な眼科検診が重要です。少しでも視力に変化を感じたら、早めに眼科を受診しましょう。
当院では、白内障をはじめとする様々な眼疾患に対して、最新の医療技術と丁寧な診療を心がけています。目のことでお悩みがありましたら、どうぞお気軽に梅の木眼科クリニックにご相談ください。
【著者情報】熊谷悠太
日本眼科学会認定 眼科専門医
2003年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業、聖マリアンナ医科大学病院眼科学教室入局
2009年 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了、桜ヶ丘中央病院眼科部長
2016年 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科主任医長
2019年 梅の木眼科クリニック開院

