糖尿病網膜症の初期症状とは?見逃しやすいサインと受診の目安
2026/08/17
糖尿病網膜症とは何か?なぜ失明につながるのか?
糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症のひとつです。高血糖が長期間続くことで、網膜の毛細血管が障害され、出血・浮腫・新生血管の発生を経て最終的に失明に至ることがあります。
糖尿病網膜症は、日本における成人の中途失明原因の 上位を占める深刻な疾患です。
網膜はカメラのフィルムに相当する組織で、光の情報を脳に伝える役割を持ちます。この組織に張り巡らされた毛細血管が、血糖値の高い血液にさらされ続けると壁がもろくなり、詰まったり破れたりします。
最も危険なのは、初期から中期にかけてほぼ無症状で進行する点です。視力低下を自覚した時点ではすでに病気がかなり進んでいることが多く、手遅れになるケースも少なくありません。
糖尿病網膜症の初期症状にはどんなサインがあるのか?
単純糖尿病網膜症(初期)では、自覚症状はほぼありません。眼底検査で初めて異常が発見されることがほとんどです。
初期段階では網膜に毛細血管瘤・点状出血・ 硬性白斑が出現しますが、これらは患者自身には見えません。血糖コントロールが改善されれば、この段階では病変が回復することもあります。
以下は、病期が進むにつれて現れる主な症状です。
初期(単純糖尿病網膜症)…自覚症状なし。眼底に点状出血・血管瘤・白斑が出現。
中期(前増殖糖尿病網膜症)…視界のかすみが出ることがある。軟性白斑・血管狭窄が見られる。黄斑浮腫があると視界の歪みやぼやけが生じる。
末期(増殖糖尿病網膜症)…硝子体出血により突然視界が暗くなる。視野の一部が欠ける。飛蚊症が急増する。
特に注意が必要なのは、「見え方に問題がない=異常なし」ではないという点です。中期まで無症状で進行するケースも多く、症状がないことを安心の根拠にしてはいけません。
糖尿病網膜症の進行段階はどのように分かれているのか?
糖尿病網膜症は3段階で進行します。各段階で必要な治療が異なるため、どの段階にあるかを正確に把握することが治療方針の決定に直結します。
日本では「改変Davis分類」と呼ばれる 以下の3段階分類が広く用いられています。
① 単純網膜症…毛細血管がもろくなり、血管瘤・点状出血・硬性白斑が出現。血糖コントロールで改善の可能性あり。
② 増殖前網膜症…毛細血管が閉塞し、網膜に酸素・栄養が届かなくなる。軟性白斑・血管の蛇行・拡張が見られる。多くの場合、レーザー治療が必要。
③ 増殖網膜症…新生血管が発生し、硝子体出血・網膜剥離のリスクが急増。手術が必要になることが多い。
さらに、どの段階でも合併しうる糖尿病黄斑浮腫(黄斑部のむくみ)は、単独で視力低下を引き起こします。黄斑は「ものを見る中心」であるため、浮腫が生じると仕事や日常生活に大きな支障が出ます。
単純網膜症から前増殖網膜症への移行には2〜3年、 前増殖から増殖への移行にはおよそ1〜2年かかることが知られており、 定期検査で段階を把握し続けることが重要です。
糖尿病網膜症はどんな人がなりやすいのか?リスク因子を知る
最大のリスク因子は「糖尿病の罹患期間」と「血糖コントロールの不良」です。糖尿病と診断されたすべての方が、網膜症のリスクを持っています。
日本国内で糖尿病が強く疑われる人と可能性が 否定できない人を合わせると約2,000万人に上るとされています。 そのうち約30%が糖尿病網膜症を発症するといわれており、糖尿病の罹患期間が10年以上になると約半数に何らかの網膜異常が見られます。
特に注意が必要なリスク因子は以下のとおりです。
血糖コントロール不良…HbA1cが高い状態が続くほど発症・進行リスクが上昇する
罹患期間が長い…糖尿病発症から5〜10年後に単純網膜症が現れ始めることが多い
高血圧・脂質異常症…血管障害を加速させ、網膜症の進行を早める
喫煙…血管収縮・酸化ストレスにより網膜の血流をさらに悪化させる
腎臓病の合併…糖尿病腎症と網膜症は同時に進行しやすい
どんな症状が出たら眼科を受診すべきか?受診の目安は?
糖尿病と診断されたら、症状の有無にかかわらず速やかに眼科を受診し、その後は年1回以上の定期検査を続けることを当院でも強くお勧めしています。
網膜症の診断を受けていない糖尿病患者でも、 年に1回は眼科を受診して検査を受けることが推奨されています。早期に発見して適切な治療を行うことで、視力低下や失明を防ぐことができます。
以下のような症状が現れた場合は、できるだけ早く眼科を受診してください。
視界がかすむ・ぼやける…前増殖期以降のサインである可能性がある
ものが歪んで見える…糖尿病黄斑浮腫を示す重要なサイン
飛蚊症が急に増えた…硝子体出血の初期症状である可能性がある
視界の一部が暗い・欠ける…増殖期の網膜剥離や出血を示す緊急サイン
突然視界が真っ暗になった…硝子体出血の可能性があり、緊急受診が必要
特に「突然視界が暗くなった」「急に視力が落ちた」という場合は、当日中に眼科を受診することが必要です。増殖糖尿病網膜症では、硝子体出血により突然何も見えなくなることがあります。
一方で、症状がない初期・中期こそ治療介入のチャンスです。
当院では眼圧検査・眼底検査・眼底3次元画像解析(OCT)、光干渉断層血管撮影(OCTA)
を組み合わせた精密検査で、自覚症状が出る前の段階から異常を検出できます。
糖尿病網膜症の検査にはどんな種類があるのか?
糖尿病網膜症の診断には、眼底検査・OCT・蛍光眼底造影検査などが用いられます。自覚症状がない段階から異常を検出できるため、定期的な受診が重要です。
糖尿病と診断された方は、自覚症状がなくても 定期的に眼底検査を受けることが重要です。主な検査は以下のとおりです。
眼底検査(散瞳検査)…瞳孔を広げて網膜全体を観察し、出血・新生血管・白斑の有無を確認する
光干渉断層計(OCT)…網膜の断面を高精度に撮影し、黄斑浮腫の程度を評価する。自覚症状が出る前の微細な変化も検出できる
蛍光眼底造影検査(FA)…造影剤を用いて血管の詰まりや漏れの範囲を詳細に調べる
視力検査・眼圧測定…基本的な視機能の評価と、緑内障合併の有無を確認する
当院では眼底3次元画像解析(OCT)を活用し、網膜の微細な変化を早期に捉える体制を整えています。糖尿病黄斑浮腫の評価にも有効で、治療効果のモニタリングにも使用します。
糖尿病網膜症の治療方法にはどんな選択肢があるのか?
治療は病期に応じて、血糖コントロール・レーザー治療・抗VEGF注射・硝子体手術の4段階で対応します。早期であるほど低侵襲な治療で進行を抑えられます。
早期診断と適切な時期の治療介入が、 視機能障害予防の要となります。当院で対応している主な治療は以下のとおりです。
① 血糖・血圧・脂質の全身管理…単純網膜症の段階では、血糖コントロールの改善だけで眼底出血が改善することもある。内科との連携が重要。
② レーザー治療(網膜光凝固術)…前増殖期以降に適用。網膜にレーザーを照射し、新生血管の発生を抑制する。視力を回復させるものではなく、進行を食い止めることが目的。
③ 抗VEGF硝子体内注射・トリアムシノロン注射…糖尿病黄斑浮腫に対して使用。VEGFという物質の働きを抑えてむくみを改善し、視力低下を防ぐ。
④ 硝子体手術…増殖期に硝子体出血や網膜剥離が生じた場合に対応。出血を除去し、剥がれた網膜を修復する。
当院では治療方針を患者様・ご家族様とともにオーダーメイドで相談しながら決定しています。
「どの治療が自分に合うのか」「手術は必要なのか」といった疑問も、丁寧にご説明します。
糖尿病網膜症を予防・進行抑制するために日常でできることは?
最も効果的な予防策は「血糖コントロールの徹底」と「定期的な眼科検査の継続」です。この2点を守ることで、発症リスクを大幅に下げ、進行を遅らせることができます。
日常生活で取り組める具体的なポイントは以下のとおりです。
HbA1cを目標値以内に管理する…血糖コントロールの目標値については内科主治医と相談し、 継続的な管理を行うことが重要
血圧・脂質も同時に管理する…高血圧・脂質異常症は網膜症の進行を加速させるため、これらの治療も並行して行う
禁煙する…喫煙は血管障害を悪化させ、網膜症のリスクを高める
年1回以上の眼底検査を受ける…症状がなくても定期受診を継続することが失明予防の要
「糖尿病眼手帳」を活用する…内科医と眼科医が連携して検査結果を共有するための ツールとして活用されている
糖尿病と診断されてから網膜症が現れるまでには5〜10年かかることが多いですが、その間に適切な管理を続けることで発症を大幅に遅らせることが可能です。
「今は見えているから大丈夫」という油断が最も危険です。
梅の木眼科クリニックでは、日本眼科学会認定眼科専門医が眼底検査・OCT・視野検査を組み合わせた精密検査を実施し、糖尿病網膜症の早期発見から治療まで一貫して対応しています。
糖尿病と診断されている方、視界の変化が気になる方は、ぜひお気軽にご相談ください。
よくある質問
糖尿病網膜症は初期に自覚症状がありますか?
初期(単純糖尿病網膜症)ではほぼ自覚症状がありません。眼底検査で初めて発見されることがほとんどです。
症状がないからといって安心せず、糖尿病と診断されたら定期的な眼底検査を受けることが重要です。
糖尿病と診断されたら、いつから眼科を受診すべきですか?
糖尿病と診断されたら、できるだけ早く眼科を受診することが大切です。その後は症状の有無にかかわらず、年1回以上の定期検査を継続してください。早期発見が視力を守る最善策です。
糖尿病網膜症は治りますか?視力は回復しますか?
初期であれば血糖コントロールで改善する可能性があります。
ただし、進行した段階では視力の完全回復は難しく、治療の目的は「進行を食い止めること」になります。早期治療ほど視機能を守れる可能性が高まります。
糖尿病網膜症の検査で散瞳(瞳孔を広げる)は必要ですか?
眼底全体を詳しく観察するには散瞳検査が必要です。散瞳薬の効果は4〜5時間程度続き、その間は光がまぶしく感じたり視界がぼやけたりします。検査当日の車・バイクの運転は控えてください。
飛蚊症が急に増えたのですが、すぐに受診すべきですか?
飛蚊症が急に増えた場合は、硝子体出血の可能性があるため、できるだけ早く眼科を受診してください。
糖尿病がある方の急激な飛蚊症の増加は、増殖糖尿病網膜症のサインである可能性があります。
糖尿病網膜症のレーザー治療は痛いですか?入院は必要ですか?
網膜光凝固術(レーザー治療)は外来・日帰りで実施できます。痛みは個人差がありますが、局所麻酔の点眼を使用するため比較的軽度です。入院は基本的に不要で、術後は通常の生活に戻れます。
抗VEGF注射はどのくらいの頻度で受けるのですか?
糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF硝子体内注射は、病状に応じて月1回程度から開始し、経過を見ながら間隔を調整します。治療効果や継続回数は個人差があるため、担当医と相談しながら決定します。
糖尿病網膜症と緑内障は関係がありますか?
関係があります。糖尿病網膜症が悪化すると新生血管が眼内に広がり、「血管新生緑内障」を引き起こすことがあります。眼圧が急上昇し、短期間で失明につながる危険な合併症です。定期的な眼圧検査も重要です。
梅の木眼科クリニックでは糖尿病網膜症のどんな治療に対応していますか?
当院ではレーザー治療・抗VEGF硝子体内注射・トリアムシノロン注射・硝子体手術まで幅広く対応しています。眼底3次元画像解析(OCT)による精密検査も実施しており、早期発見から治療まで一貫してサポートします。
横浜市保土ヶ谷区近隣から受診できますか?ネット予約はできますか?
当院は相鉄本線西谷駅北口より徒歩約7分に位置し、ネット受付に対応しています。横浜市保土ヶ谷区・旭区・西区など近隣の方はもちろん、幅広いエリアからご来院いただけます。
結論
糖尿病網膜症は初期に自覚症状がなく、視力低下を感じた時点では既に進行していることが多い病気です。
日本の視覚障害原因上位を占めるこの疾患から視力を守るには、糖尿病と診断されたら直ちに眼科を受診し、年1回以上の定期検査を継続することが最善策です。
血糖・血圧・脂質の管理と並行して、眼底検査・OCTによる早期発見・早期治療を実践してください。
【著者情報】熊谷悠太
日本眼科学会認定眼科専門医
2003年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業、聖マリアンナ医科大学病院眼科学教室入局
2009年 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了、桜ヶ丘中央病院眼科部長
2016年 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科主任医長
2019年 梅の木眼科クリニック開院

